あらすじ
高校を卒業した星来(セラ)は、料理を続けるため、かつての高校の料理講師が働く料理教室を訪れる。再会した二人は、すでに教師と生徒ではない。それでも、過去が作った「正しい距離」は、容易に消えなかった。
教室では料理の技術だけが淡々と交わされ、私的な感情は慎重に避けられる。何も起きない日々の積み重ねの中で、星来は一度だけ距離を詰めようとし、静かに拒まれる。関係は壊れないが、確かな線が浮かび上がる。
やがて講師の内側に、初めて揺れが生まれる。行動は変えず、越えないと決めた一線を守りながらも、感情は弱火のまま変化していく。
本作は、禁じられた恋を描く物語ではない。正しさと欲望の間で、「何も起こさない選択」を重ねる二人の時間を、料理の工程になぞらえて静かに描く恋愛小説である。