あらすじ
藤原直人は、ずっと信じていた。
西園寺由紀は「素直になれないツンデレ」なのだと。
冷たく、距離を取り、時に露骨な拒絶を見せながらも、
彼女は彼との関係を完全には断ち切らなかった。
だから彼は、その曖昧さを「特別」だと思い込んだ。
中学の入学式の日から、
彼は彼女の沈黙や無関心、回避を
すべて「照れ隠し」だと解釈し続けた。
五十年の間に、
彼女は恋をし、別れ、結婚し、離婚した。
彼はただ一人、
いつも“戻ってくる場所”としてそこにいた。
選ばれたことは一度もない。
それでも彼は信じ続けた。
――「最後に選ばれるのは自分だ」と。
人生の終わりが近づいた時、
彼はようやく気づく。
彼女はツンデレではなかった。
ただ、最初から彼を好きではなかっただけだった。
これは、
始まらなかった恋に人生を費やした男の記録である。