あらすじ
明けない夜の過ち
~井口店長の計算違い~
閉店後の店内は、蛍光灯の音だけがやけに大きかった。
スタッフルームに立つ女子高生二人は、笑いをこらえているようにも、緊張しているようにも見えた。
銃は、冗談のつもりだった。
本物かどうかも、撃てるかどうかも、誰も確かめていない。
面白半分で手に入れ、面白半分で持ち込んだ。
それだけの話だった。
「動かないから」
そう言って、佐伯由美は銃口を店長井口に向けた。
誰かがくすくす笑い、小林真紀が「やめなよ」と小さく言いかけた、その瞬間だった。
乾いた音がした。
最初に倒れたのは、銃を持っていた由美だった。
引き金を引いたのは彼女自身――指が滑ったのか、緊張で握りしめたのか、誰も永遠に知らない。
血が床に広がるのを、真紀はただ見ていた。
真紀は声を出せなかった。
逃げるべきか、助けを呼ぶべきか、考える前に、店長と目が合った。
店長――井口正和は、銃を見ていた。
頭の中では、もう別の計算が始まっていた。
警察。
防犯カメラ。
閉店後。
バイトの高校生。
銃がある現場。
自分の過去――二十年前の小さな横領、帳簿をごまかした記録が、いつか明るみに出るかもしれない恐怖。
「強盗が入った」
その筋書きなら、自分はただの被害者になれる。
高校生の悪ふざけが原因だなんて、誰も知らなくていい。
彼は金庫を開け、引き出しをひっくり返した。
床に倒れている由美の手から銃をそっと取り、震える真紀に銃口を向けた。
真紀の目が、信じられないものを見るように見開かれた。
引き金を引いたとき、躊躇はなかった。
次は自分だ、と井口は思った。
足か肩をかすめる程度でいい。
被害者として撃たれた証拠があればいい。
銃声。
熱。
右腹を貫いた痛みは、思ったよりも深かった。
床に座り込み、呼吸が荒くなる。
軽い怪我のはずだった。
止血の仕方が分からないまま、時間だけが過ぎる。
受話器を取る。
119を押せば助かる。
それは分かっていた。
だが、時計を見た。
午前零時四十分。
まだ早すぎる。
通報すれば、なぜそんなに早く状況を把握していたのか、必ず聞かれる。
強盗なら、気絶していたはずだ。
目撃していたはずがない。
受話器を持つ手が震える。