あらすじ
天禄三十八年、正月。京の都は戦火で焼け落ちた。
公家の娘・花房 葵(はなぶさ あおい)は、家財よりも数千冊の古文書を守るため、なりふり構わず炎の中を走り回っていた。
都が焦土と化した今、彼女が下した決断は一つ。「この蔵書を守れる強力な武門へ、自分ごと疎開(よめい)りする」こと。
葵が目をつけたのは、北の辺境・青嶺国(あおみねこく)。
成り上がりの国人領主が「京の箔(ブランド)」を欲しがっていると見抜いた彼女は、自らを交渉材料に、蔵書の運搬と保護を条件とした「契約結婚」を成立させる。
しかし、はるばる嫁いだ葵を待っていたのは、予想外の事態だった。
頼りにしていた仲介役は急死し、肝心の夫・黒川 泰勝(くろかわ やすかつ)はなぜか姿を見せない。
義父の冷たい笑顔の裏で、何かが隠されている。
「夫がいないなら、自分で探すまでよ」
葵は決意する。
昼は、離れで病弱を装う「深窓の妻・葵」として。
そして一歩外に出れば、髷を結い、男装して現場を駆ける「天才少年技官・青葉(あおば)」として。
辿り着いた治水工事の最前線で、彼女が出会ったのは、泥まみれで働く無骨な大男・犬蔵。
粗野だが、誰よりも領土(くに)を守ろうとする彼の熱い魂に触れるうち、葵の心は大きく揺らぎ始める。
(いけない。私には顔も知らぬとはいえ、契りを交わした夫がいるのに……)
会えない夫への義理と、目の前の男への止められぬ思慕。
数学と土木で国を救いながら、自身の恋心とも戦うことになった葵の、愛と波乱の戦国絵巻。