あらすじ
かつて負の感情や傷ついた実体験を糧に物語を書いてきた主人公は、将来を見据え、感情を制御しながら生きることで「安定」を手に入れた。
しかしその安定と引き換えに、物語を書くための衝動や決定的な痛みを失ってしまう。
希望は壊れてはいない。だが信じ切るには脆く、完全に落ちることも、穏やかな幸福を描くこともできない中途半端な状態。
その宙吊りの感情こそが、小説を書けなくなった本当の理由だった。
主人公は「書けない理由を書く」ことで、初めて今の自分を言葉にする。
それは書けたという実感と、もう取り戻せない何かが欠けているという自覚が同時に存在する記録。
本作は、再生でも破滅でもない。
書けたものと欠けたものを抱えたまま生きる、一人の創作者の静かな選択を描いた物語である。