あらすじ
中世の街外れ。
宿屋兼酒場で雇われとして働く孤児の女は、金だけを信用して生きている。
自由になりたいとか、夢があるとか、そんな綺麗事はどうでもいい。
金があれば選べる。選べれば逃げられる。それだけが真実だった。
ある夜、裏部屋で倒れた男は、身分を隠した貴族だった。
神罰だと騒ぐ周囲をよそに、女は吐瀉物の匂いと体の様子から原因を見抜く。
毒でも呪いでもない。
金のある男が、自分の体を雑に扱った結果だった。
女は助ける代わりに、銀貨を受け取る。
善意は売らない。
売るのは知恵と判断だけだ。
数日後、貴族の使いが現れる。
別の国から来た貴族の領地では、医師は教会が独占しており、金を積んでも診てもらえないという。
医師ではないが見抜いた女に、診てほしいと依頼が来る。
女は即座に条件を出す。
前金、診察料、口止め料、通行札。
責任は負わない。文句は金で払え。
それが受け入れられるなら、診る。
従者の治療と引き換えに、女は銀貨と身を守る紙を積み上げていく。
貴族の秘密、教会の影、噂と面倒をすべて金に換え、街を出る準備を整える。
夜の街道で追い剥ぎに遭っても、女は金と紙で切り抜ける。
次の町では、自分の知恵を売る居場所を見つけ、最初の銀貨を稼ぐ。
善人ではない。
医師でもない。
ただ、がめつく、計算高く、生き残った女。
自由という言葉は嫌いだが、
選べるだけの金を持った今、彼女は確かに勝っていた。