あらすじ
大学生の結芽は、たった1本の醤油を買いに出た帰り道、自転車のパンクをきっかけに祥一郎と出会う。
修理工場での何気ない会話、送り届けられたアパートまでの道、交わされた連絡先。
それはあまりにも静かで、特別ではない出会いだった。
けれど、そのささやかな時間は、2人の心に確かに残った。
少しずつ距離を縮め、何度も会い、言葉を重ねるうちに、祥一郎は気づいてしまう。
結芽が、自分にとって初めて「愛したい」と思えた人であることに。
守りたい、傷つけたくない、失いたくない
――その想いは、同時に彼を追い詰めていった。
祥一郎には、過去と責任があった。
家族、仕事、そして京香という存在。
自分の人生に結芽を巻き込めば、彼女を傷つける未来しか見えなかった。
だから祥一郎は、結芽を守るために、最も卑怯で残酷な選択をする。
優しさを捨て、冷たい言葉を並べ、結芽に嫌われることで終わらせること。
「俺を忘れるくらい、嫌いになってくれたほうがいい」
その夜、マンションの前で告げられた別れは、結芽の心を深く傷つけた。
理由もわからないまま、ただ突き放され、結芽は涙をこぼす。
親友・綾子に抱きしめられながら、言葉よりも安心に包まれ、静かに泣いた。
一方、祥一郎もまた、すべてを終わらせた夜に、ひとり部屋で泣き崩れる。
正しかったのか、自分の選択は――
答えのない問いだけが胸を締めつけた。
そして、時は流れる。
尚毅は結婚し、父となり、祥一郎から店を託され、自分の人生を歩き始める。
祥一郎は車業界から美容業界へと転身し、新たな事業を立ち上げ、経営者となった。
京香との婚約。
過去に蓋をし、前へ進んだはずだった。
3年後――
結婚指輪を探しに入ったジュエリーショップで、祥一郎は結芽と再会する。
大人の女性へと変わった結芽。
淡々と接客するその姿に、祥一郎は悟る。
自分は忘れられなかったが、結芽は前に進んだのだと。
けれど、本当にすべては終わっていたのか。
嫌われることで守ろうとした恋は、消えていたのか。
交わせなかった約束と、指切りげんまんの続きを、二人は再び向き合うことになる。