あらすじ
伸子は、長旅から帰ってきた。
帰ってきたのは、新球場エルコンフィールドが建設されたばかりの北海道北広嶋市。
台所で手に取った一冊の本に、
「?」とだけ書かれた謎のメモが挟まっていた。
それは、かつて共に過ごし、二年の空白を経た花友・響香から始まる、
記憶と水の物語の入口だったのかもしれない。
やがて二枚目のメモの謎とともに、
人と人を、ふたたび結び直していく。
伸子の長旅とは何だったのか。
そのきっかけは、どこにあったのか。
きっかけは、いつもカバンに入っている
あるものがなかったからだというけれど。
妙蓮寺の井戸、横浜の水道、知覧の茶畑。
水の記憶をたどる旅の中で、
伸子は水道インフラの源泉に、
響香は父の記憶と向き合う。
旅の終わりに現れるのは、中東の料理と、
スーツケースの中で新聞紙に包まれていたもの――
遠い土地へ渡った「若き父」の面影だった。
文字は揺れ、意味はほどける。
それでも台所に立つことで、
人はもう一度、世界とつながり直す。
空を越え、青いガーベラ鉄道に乗り、
その先に待つものとは――。
ものがたりが終わるとき、
散らばっていたすべては、きっと静かにつながっていく。
謎は解かれ、
世界と生き直すために戻る場所。
そこが、台所なのだ。
書棚がパソコンとスマホへ移った今だからこそ、
日本語の美しい響きを、若い世代ともに共有したい。
そんなアラ還の静かな希望と挑戦に、
あたたかな応援をしてほしいと、心から思う。