あらすじ
「疲れた」としか言えない夜がある。
理由はわからない。悲劇があったわけでも、不幸に見舞われたわけでもない。ただ、生きていることそのものが重く、朝が来るたびに心が置き去りにされていく。
本作は、名前のない語り手が、自分の内側に溜まり続けた感情と向き合いながら、「逃げること」「休むこと」「生き続けること」の意味を探していく静かな物語である。
他人には理解されない痛み、言葉にできない不安、努力すれば報われるという幻想への違和感。夜に逃げ込みながらも、時間だけは否応なく進んでいく現実の中で、語り手は自分が「普通」からずれているのではないかと苦しみ続ける。
しかし、物語は救いを声高に語らない。
奇跡も答えも用意されていない。ただ、泣けない夜や、立ち止まる時間、何も生み出さない日々が、確かに人を生かしているという事実が、静かに示されていく。
逃げたいと願うことは、生きることを手放していない証拠なのかもしれない。
夜を買うことはできなかったとしても、それでも夜を生き延びてきた人間がいる。
本作は、誰かを励ますための物語ではない。
ただ、「こんなふうに生きている人もいる」という事実を、そっと世界に置くための物語である。