あらすじ
文化ホールにて。
『未発見ベートーヴェン草稿・公開リハーサル』を前に、関係者たちは一つの“事件”に直面する。
――チェンバロが、見当たらない。
鍵のかかった楽器庫にもない。
それなのに、誰もが「昨日は確かにあった」と言い張る。
指揮者であり音楽史研究家の桐生は焦り、チェンバロ奏者は「純正律で調律した」と証言する。
だが、プロヴァイオリニストで調律師の千鐘絢音は、静かに首をかしげる。
本当に“消えた”のは楽器なのか。
それとも――最初から、そこにあったはずのものだったのか。
音楽史の「捏造」と「補正」。
鳴らない和音が引き起こす、認識の密室。
そして最後に残るのは、誰も悪くないのに、確かに“怖い”という感触。プロヴァイオリニスト千鐘絢音が解き明かす日常の謎×音楽ミステリ短編。