あらすじ

元の世界へと返してくれるはずだった緑の渦。念願空しく、私の前には、未だに現れない。焦りと期待で、もう我慢の限界に近づいた頃、最高裁で、高等裁判所の判決通り死刑が確定した。この時代における通例から考えれば、死刑執行までに、五,六年の猶予がある。戦々恐々とはしながらも、タイム魔人を信じるより他はなかった。 未来からくる微弱な思考を捉える、多少私が身につけたテレパシーを、精一杯活動させて様子を探ろうと、何年も続けた。しかし、何の情報も得られず、日毎に、焦燥感の重い塊に押し潰されそうになった。 看守に何度も熱心に頼み込んで、渋々、面会室で、取り調べを担当した警部補に会わせてもらった。研究を目的に、三千四百九十九年の未来から、二千四十年の現在へと来たこと。その後の顛末を事細かく述べた。全精力を注ぎこみ、見栄も外聞もなく、ニキビとソバカスに覆われた顔を、大粒の泪で濡らし、悲壮感を漂わせて本当のことを訴えた。 だが、冷酷にも警部補は、最高裁での判決は,一事不再理の原則に従い、覆す事は不可能と言うや,そそくさと帰ってしまった。それでも、私は長々と事実を書き連ねた手紙を最高裁長官に宛てて出そうとしたが、所長の検閲で差し戻された。この頃から、たびたび法務大臣が、私の死刑執行許可証に印鑑を押す悪夢に、うなされ夜中に飛び起きた。冷汗で全身が、びしょ濡れになり、混乱した恐怖で眠れぬ日々が続いた。 窓も鏡さえもない独房生活を九年ほど送った頃、臨済宗のお坊さんが、週に二,三度訪れるようになった。有難い話(?)を聞かされても、ヒンズー教を信奉する私には、文字道理、馬の耳に念仏で、少しの慰めにもならず、未だに未来から、幸ある頼りに全神経を傾注していた。 ある朝、突然、食事前なのに、刑務官三名と,経を手にした臨済宗のお坊さんが、入ってきた。いつも行く風呂場とは反対の廊下を歩かされ、独房の通路に面した小窓に、気の毒そうな眼を多く見かけた。 通路よりもさらに暗い部屋に、大の字にされ、拘束機で手足を挟まれた時。いよいよ、今生の肉体より解き放たれ、輪廻の魂界に昇華される。そう覚悟を決めた時だった。真上から眩しいほどに研がれた、四本の大きくて重たそうな斧が重力の法則に従って、今、正に自由落下しょうとした瞬間。 私の、否、彼の潰れていない視力、〇.〇四しかない左目が、小さな緑の渦を捉えた。斧の落ちる方が早かっ……。

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エブリスタ
エブリスタ2018/02/14
  • 現在の作品未来から【タイム魔人】で現代日本にタイムトラベルした私