あらすじ
北海道北広嶋市に暮らす伸子には、四十年間変わらない習慣がある。
旅から戻ると、まず台所に立つことだ。
ある日、台所で手に取った一冊の本に、
「?」とだけ書かれた謎のメモが挟まっていた。
それは、かつて共に過ごし、二年の空白を経た友・響香から始まる、
記憶と水の物語の入口だった。
伸子の次女・未希は、紙芝居と人形劇で
「地下水はどこから来て、どこへ行くのか」を子どもたちに問いかける。
台所、庭、球場、地下歩道――
ささやかな場所に残された声や文字は、
やがて一枚のメモを手がかりに、人と人を再び結び直していく。
妙蓮寺の井戸、横浜の水道、知覧の茶畑。
水の記憶をたどる旅の中で、
伸子は水道インフラの歴史を書き、
響香は父の記憶と向き合う。
旅の終わりに現れるのは、中東の料理と、
新聞紙に包まれた鰹節――
遠い土地へ渡った「若き父」の面影だった。
文字は揺れ、意味はほどけ、
それでも台所に立つことで、人はまた世界とつながり直す。
青いガーベラ鉄道に乗り、
彼女たちは「ただいま」と帰ってくる。
ここは、世界を変える場所ではない。
世界ともう一度、生き直すための台所なのだ。