あらすじ
両親を亡くし、古い実家でたった一人、画面越しの世界に閉じこもっていた二十九歳の佐藤航。 彼の時間は、十年前、幼馴染の美咲を見送れなかったあの春から止まったままだった。
「彼女がどこかで幸せなら、それでいい」 そう自分に言い聞かせ、誰のぬくもりも知らずに生きてきた航の元に、ある日、春の嵐とともに「過去」が舞い込む。
玄関先に立っていたのは、ボロボロのバッグを握りしめ、不安に肩を震わせる美咲。 そして、彼女の傍らには、かつての彼女に瓜二つの小さな少女。
火事ですべてを失い、最後の手がかりを求めて戻ってきた母娘。 突然始まった、ぎこちない三人の共同生活。 失ったはずの食卓の湯気、子供の柔らかな体温、そして――。
かつて伝えられなかった「好き」という言葉は、十年の歳月を経て、より深く、より切なく胸の奥で疼き出す。
これは、止まっていた時計を動かすための、喪失と再生の物語。 「僕はまた、君に恋をしてもいいですか――?」