あらすじ
伊織は、生きる意味を見失ったまま、会社からの帰り道を歩いていた。
離婚してから、何年が過ぎたのかも、もう正確には覚えていない。
ただ、仕事を終えて家に戻り、また翌日を迎えるだけの毎日だった。
冬の夜気は冷たく、街灯の下で吐く息が白く揺れる。
駅へ向かう足取りは、もう習慣のように勝手に前へ進む。
金曜の夜だけは、駅構内や駅前の居酒屋で一杯やって帰る。
それが、今の伊織に残された、唯一の楽しみだった。
――この夜、
二度と会うことはないと思っていた女性と再会するまでは。
徒歩十五分の道のりを、
伊織はまだ知らない。
自分の止まっていた時間が、
もう一度動き出そうとしていることを。