あらすじ
高知の強い西日が差し込む放課後。
高校生になったばかりの僕――田頭将太の手には、まだ何もなかった。
中学三年間を捧げたバスケットボールを辞め、ただ漫然としたままテニス部へ入る。
「将太、シャキッとしなよ! 私もインターハイ目指してガンガン泳ぐんだから」
プールサイドで飛沫を上げ、自分の色を疑わずに泳ぎ続ける菜奈。
彼女の放つ眩しい「青」は、僕の空白を埋めてくる。けれど、親友の雄一に連れられて足を踏み入れた北校舎の二階――そこには、僕の知らない別の時間が流れていた。
油絵具の匂いと、古い木材の静寂。
一筋の光を背負い、キャンバスに向かう二年生の先輩、間城優日。
美術部と写真部を掛け持ちする彼女は、おっとりとした微笑みを浮かべ、空っぽな僕の手を見てこう言った。
「真っ白なキャンバスみたいで、とっても素敵――どんな色にでもなれる、大事な時間だね」
レンズ越しに世界を切り取り、永遠を紡ぐ彼女の「光」。
そこに触れた瞬間、僕の中にあった菜奈と同じ色が、少しずつ、けれど決定的に変わり始めていく。
泳ぎ続けることでしか自分を保てない菜奈の焦燥。
シャッターを切ることでしか世界と繋がれない優日の孤独。
そして、二つの居場所の境界線で立ち尽くす僕らの揺らぎ。