あらすじ

医学がこの病に白旗を上げたのは、いつのことだったか。  一九〇六年にアロイス・アルツハイマー博士が最初の症例を報告して以来、一世紀以上もの間、人類は脳の萎縮という現象に抗おうとして、無惨に敗北し続けた。  アミロイドベータを除去しても、タウタンパクの暴走を制御しても、進行する「忘却」と「崩壊」を完全に食い止めることはできなかったからだ。  だから社会は、戦うことをやめた。  治せないなら、管理すればいい。  壊れたハードウェア(脳)を修復するのではなく、バグを起こしたソフトウェア(記憶)の方を書き換えてしまえばいい。  それが、高度にシステム化されたこの国の出した、あまりにも合理的で、残酷な結論だった。  以来、徘徊や暴力、異食といった認知症の周辺症状――現場でBPSDと呼ばれる厄介な振る舞いは、単なる「データのエラー」として扱われるようになった。  暴れるなら、その動機となる怒りの記憶を消せばいい。  泣き叫ぶなら、悲しみの原因となるエピソードを削除すればいい。

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カクヨム
カクヨム2026/01/24
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