あらすじ
かつて名を持ち、
やがて名を失った地があった。
剣と血と歌がそれを語り、
石と風がその名を削った。
英雄は知らぬまま倒れ、
象徴は拒めぬまま祀られ、
願いは意味を与えられぬまま折れた。
生あるうち、名はなく、
死して後、名は集められ、
祈りと火の中で
別の声へと変えられる。
正義は語られ、
平和は歌われ、
戦は秩序として記された。
されど、
名を持たぬ者の息と、
届かなかった願いは、
いずれの書にも刻まれなかった。
時が流れ、
すべてが風となった頃、
影の中に、
小さき命が生まれ落ちたという。
――これを、
灰燼年代記と呼ぶ。
そして、名を持たぬ火は消えず、
世の底に伏して、次の時を待つ。