あらすじ
遠野彩芽は、誰にも頼れなかった。
母が倒れ、介護が始まった。
仕事と介護の両立。終わらない日々。積み重なる疲労。
それでも、恋人の佐野葉月には言えなかった。
「弱さを見せたら、嫌われる」
3ヶ月間、すべてを隠し続けた彩芽は――やがて壊れた。
葉月に真実を知られ、責められ、関係は終わった。
8ヶ月後。
金曜の終電。葉月は、毎週同じ電車に乗っていた。
彩芽の最寄り駅を通る、中央線下り。
会いたいわけじゃない――そう自分に言い聞かせながら。
その夜、車内で――彩芽がいた。
「なんで、いるの」
二人は、同じことをしていた。
毎週、終電に乗って。会えないとわかっていても。
電車が走る。冬の夜を。
積もった8ヶ月が、言葉になる。
「怖かった。弱さを見せるのが」
「私も怖かった。支えきれないかもしれないって」
どちらも逃げた。
どちらも、間違えた。
でも、今夜――もう一度だけ、賭けてみる。
「来てほしい。私の家に」
「……行く」
玄関の電球を、二人で替える。
パチッ、と音がして、灯りが点いた。
あと一粒の灯りは――
二人で、点けるものだった。
弱さを抱えたまま、それでも前に進む。
不完全な二人の、再生の物語。