あらすじ
「ねえ、もうイヤホン片方貸すのやめていい?」——三年間付き合った彼氏・健吾からの突然の別れ話。泣き縋ると思っていた彼の予想を裏切り、音羽は静かに「わかった」と答えた。三年間、彼の選ぶ曲に頷き続け、自分の「好き」を殺してきた日々。それは、音大を諦めた過去から続く、自分を消す生き方だった。祖母が遺してくれた下北沢の古い一軒家と、小さなレコード店。埃をかぶったレコードプレーヤーに針を落とした瞬間、音羽の止まっていた時間が動き出す。棚の奥で眠っていたのは、かつて百枚しか売れなかった幻のバンド『月蝕』のレコード。そしてその音楽との再会は、思いがけない出会いへと繋がっていく。誰かの「片耳」ではなく、自分だけの音楽を取り戻す物語。本当に分かち合いたい相手は、自分の音を見つけた先にいた——。