あらすじ
横浜市鶴見区は、特別な英雄によって築かれた町ではない。
また、最初から明確な理念や理想を掲げて形成された都市でもない。
海と川、低地と台地、街道と鉄道、工業と生活――
さまざまな境界が重なり合う場所として、鶴見は時代ごとの現実を引き受けながら形づくられてきた。
縄文の定住から弥生の稲作、古代の信仰、中世の戦乱、江戸の街道、開港による衝突、工業化と移住、震災と空襲、公害と多文化。
この町の歴史は、成功譚でも悲劇の連続でもない。
その都度、壊れ、立て直し、選び直してきた過程そのものである。
本書は、鶴見区の歴史を美化も断罪もせず、
地形・交通・産業・人の移動という具体的な要素から、時系列でたどる地域史である。
逸話や伝承には距離を保ち、史実との関係を明示しながら、
「なぜこの町は、こうなったのか」を静かに問い直す。
鶴見の歴史は、完成された物語ではない。
それは今も続く過程の一部であり、現在を生きる人々の足元に重なっている。
この町を知ることは、
日本の近代と、その影にあった現実を知ることでもある。