あらすじ
【あらすじ】
ダムの底に沈んだ村、月影湖。そこには地図から消されたはずの「声」が今も渦巻いている。 記録者としての宿命を背負った少女・志乃は、導かれるようにこの湖を訪れる。彼女を待っていたのは、数万の村人たちが切り捨てた「書かれたくない記憶」を一身に引き受け、異形の濾過装置と化した少年・和也だった。
かつて志乃の祖母・千代は、慈悲の名の下に人々の汚れを「書かないこと(余白)」で救おうとした。しかし、その善意は「記録のゴミ捨て場」として和也を水底に縛り付ける呪いへと変質していた。 自らの肉体をインクに変えてまで記述を続ける志乃と、沈黙を破られることを拒絶しながらも救いを求める和也。
これは、記録することの残酷さと愛を描き、文字という檻から魂を解き放つための、凄絶な救済の物語。
【登場人物紹介】
志乃(しの) 現代の記録者。祖母・千代から「土地の声を刻む」血脈を継承している。右腕に浮かび上がる文字の紋様は、情報の過負荷を物理的な痛みとして彼女に与える。和也を「書き切る」ことで救おうとするが、やがて記録そのものの限界に直面する。
和也(かずや) 過去編における千代の孫。ダムに沈む村の「余白の蓋」として選ばれ、数十年もの間、水底で村人たちの負の感情を濾過し続けてきた。全身が真っ黒なインクと文字に蝕まれており、静寂を乱す者を拒絶するが、その深淵では自分を見つけてくれる「誰か」を待ち続けている。
千代(ちよ) 志乃の祖母であり、先代の記録者。ダムに沈みゆく村の郵便局員。人々の苦しみを歴史に残さないために「余白」を作り出したが、それが結果として和也という人柱を生んでしまった。現在は実体を失った「気配」として志乃を導く。
【世界観・キーワード】
記録者(レコーダー) 世界に起きた事象を、私情を排して正しく記述する宿命を負った一族。記録されない事象は「余白」となり、この世の均衡を崩す毒となる。
月影湖(ダム湖) 物語の舞台。物理的な水の底に、千代が意図的に作り出した「記録の空白地帯」が沈んでいる。
記録の外へ 志乃が最終的に見出す答え。記述して固定すること(記録)でも、無視して葬ること(余白)でもない、愛する存在と共に在るための第三の道。