あらすじ
高校二年生の真尋は、長期入院している母の見舞いのため、夏休み中も総合病院へ通う日々を送っていた。感情を表に出すのが苦手で、他人を優先するあまり自分の気持ちを後回しにしてしまう少年である。
ある日、病院の屋上で、フェンス越しに外を眺める同い年の少女・陽菜と出会う。明るく前向きな笑顔を見せる彼女は、どこか影を帯びていた。二人は病院という閉ざされた場所で言葉を交わすようになり、やがて短時間の外出を共にするようになる。コンビニでアイスを買い、街の音に耳を澄ませる――ごくありふれた夏の光景が、陽菜にとっては特別な時間だった。
交流を重ねる中で、真尋は彼女の体調が少しずつ悪化していることに気づく。外出は制限され、屋上で過ごした時間も失われていく。それでも陽菜は「今を楽しむ」姿勢を崩さず、終わりを意識した言葉を時折口にする。
やがて真尋は、医師から陽菜の病名と余命を知らされる。彼女は夏期進行性神経循環症候群(通称・SANS)という不治の病を患い、余命は長くて一年。真尋は恐怖から距離を取ろうとするが、陽菜は「逃げない選択もある」と静かに告げる。限られた時間を知ったうえで、共に過ごすこと――真尋は初めて、自分の意思で「今を選ぶ」決断をする。
夏の終盤、陽菜の体は急速に衰えていく。会話は短くなり、沈黙の時間が増えても、二人は同じ空を見つめ続ける。やがて陽菜は、穏やかな眠りの中で静かにその生を終える。
夏が過ぎ、日常が戻った世界で、真尋は彼女のいない時間を生きていく。もう二度と戻れない夏。しかし、終わりが分かっていたからこそ、確かに残った時間があった。別れを抱えながら、それでも前へ進む少年の姿を、静かな余韻とともに描く青春恋愛ドラマである。