あらすじ
この街を歩くのは、何年ぶりだろうか。
小学生の子供の手を引きながら、私は自分の足取りが妙に遅くなっていることに気づいていた。
見慣れたはずの道なのに、目に入るもの一つ一つを確かめるように歩いている。
子供の頃、この辺りはいつも人で溢れていた。
年の暮れになると、母に連れられて正月用の服を買いに来た。特別な用事がなくても街に出れば何かがあった。理由もなく歩いて、理由もなく立ち止まることが許される場所だった。
今は、店の多くがシャッターを下ろし、通りには風の音しか残っていない。記憶の中の賑わいと、目の前の静けさの落差に、私は言葉を失う。
あの人たちはどこへ行ってしまったのだろうか。あの時間は、いったいどこに置き忘れたのだろう。
それでも、まだ終わってはいないのかもしれない。
街は黙っているだけで、何かを語ろうとしているようにも見えた。