あらすじ
アンダルシア最後の光が揺れるグラナダの地で、名を持たぬ一人の女、ソフィアは書き続けていた。
宮廷でも庶民の間でも決して語られない、しかし確かにそこにある“名も記録も持たない者たち”の物語。
やがてその言葉たちは詩となり、祈りとなり、そして――噂となって風に乗る。
自らの名を記さず、誰かの声を代わりに綴るようにして。
書くことで生まれる自由と、書くことで生まれる危険のはざまで、
ソフィアは記録の意味を問い続ける。
そしてその記録は、いつしか“読まれた者”を照らし出し、
権力の目をも惹きつけてしまう。
これは「記録されること」の意味をめぐる幻想歴史文学である。
語られなかった声たちが、火の前夜に立つ記録者を通して、
静かに世界に息を吹き込もうとしている――。