あらすじ
「じゃ、かんぱーい…………って、おい、飲まないのか?」
おれは、口をつけかけたビールのグラスをそっと下ろした。
向かいに座る大崎はテーブルに両肘をつき、自分のグラスをただじっと見つめていた。
「おれ一人でグラスを掲げてバカみたいじゃないか」と、おれはおどけるように言ってみたが、大崎は微動だにしない。聞こえていないのか、聞こえていても反応する気がないのか、判別すらできなかった。
この夜、おれは友人の大崎に誘われ、駅近くの居酒屋に来ていた。だが、待ち合わせの時点からどうも様子が変だった。おどおどして、歩く速度も妙に速くなったり遅くなったりと一定ではなかった。一緒に歩くのが、少し恥ずかしかったほどだ。