あらすじ
──現代に“冒険者ギルド”があったなら。
これは、
2040年の街で生きる冒険者たちの物語。
剣も魔法もない世界で、
それでも確かに「冒険」が息づいている時代の日常である。
ジュニア冒険者のユイは、休日になるとママに同行してクエストをするのが日課になっている。
今日の依頼は〈護育〉クエスト。向かった先は、住宅地のはずれにある小さな保護施設だった。
中には、犬や猫が静かに暮らしていた。
散歩、清掃、記録――やることは多いけれど、ユイにもできる仕事がある。
渡されたノートに、名前や体重を書き込んでいく。
その中で、ひとつだけ“名前の欄が空白のまま”の犬がいた。
白くて、少しこわがりで、でもちゃんと人を見ている犬。
「この子、名前は?」
ユイの問いに、施設の人は困ったように笑う。
「情が移るから、番号だけなの」
番号で呼ばれる犬。
呼ばれないまま、ただそこにいる犬。
ユイは、その静けさに胸がざわつく。
――名前って、呼ぶためのものだと思う。
その思いが、ユイの中でゆっくり形になっていく。
そして、白い犬の前で、ユイは小さく口を開いた。
その一言が、クエストの空気を変え、
白い犬と施設とユイの未来を、そっと動かし始める。