あらすじ
──現代に“冒険者ギルド”があったなら。
これは、
2040年の街で生きる冒険者たちの物語。
剣も魔法もない世界で、
それでも確かに「冒険」が息づいている時代の日常である。
ジュニア冒険者のユイは、今日は特別な日を迎えていた。
ママが〈専職:調理〉のスキル〈包丁術〉で、競能祭に出場するのだ。
会場は港近くの大きな調理施設。
白い床、整然と並ぶ調理台、魚と金属の匂い。
そこに集まっているのは、日々の仕事で“切る”ことと向き合ってきた冒険者たちばかり。
競技は一対一のトーナメント。
派手さではなく、正確さと積み重ねがすべてを決める。
ママのレベルは6。対戦相手にはレベル10の熟練者もいる。
「見るだけでも、十分勉強になるよ」
そう言って前に進むママの背中は、静かで、揺るがない。
開始の合図とともに、調理台に置かれたのは氷気の残る一本の魚。
対戦相手が迷いなく出刃を振り上げる中、ママはまだ動かない。
頭の角度、骨の湾曲、関節の位置――
“どこに刃が入りたがっているか”を見極めている。
ユイは息を呑む。
――ママは、どんなふうに切るんだろう。
その瞬間、ママの手が静かに包丁へ伸びた。
競能祭の空気が、わずかに揺れる。
ここから、技と判断の物語が始まる。