あらすじ

​「革はいい。嘘をつかないし、余計なことは喋らない」 ​神凪 絃(かんなぎ げん)、27歳。 ある事情から音楽を捨て、路地裏で革工房を営む彼は、人よりも少しだけ耳が良い。 良すぎるのだ。人の心に渦巻く欲望、嫉妬、愛憎……そんな「ノイズ」が聞こえてしまうほどに。 ​酒に溺れた父と、男に溺れた母。「あんたさえ居なければ」という呪いの言葉。 愛を知らず、孤独という鎧をまとって生きる彼にとって、世界はただうるさいだけの場所だった。 ​――あの日、雨の工房に『彼女』が現れるまでは。 ​雨宮 紬(あまみや つむぎ)。 ずぶ濡れで現れた彼女は、幽霊だった。 そして、絃がこれまで出会った誰よりも特異な存在だった。 ​彼女には、心音がなかった。言葉も、心の声さえも持たない、完全なる『静寂』。 「……邪魔だ。そこにいろ」 口では拒絶しながらも、絃はその心地よい静寂に救われ、奇妙な同居生活を受け入れる。 ​そんな彼女が、ある日、音のない言葉で依頼をしてくる。 『あるギターのために、最高のケースを作ってほしい』 ​手渡されたのは、古びた寸法メモだけ。 それが誰のものなのか、なぜ彼女がそれを望むのか、絃はまだ知らない。 ​「これを作れば、お前は消えるんだな?」 ​音を捨てた職人の指が、静寂を縫い合わせる時。 止まっていた過去が、真実の音色となって動き出す。

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カクヨム
カクヨム2026/01/19
  • 現在の作品雨の工房で、君と静寂を縫う