あらすじ
鍛冶の街リヨンで生まれ育ったマーガレットは、腕利き鍛冶職人フォルジュの娘だった。十八歳の彼女は表向きこそ工房の雑用係だったが、実際には父から鍛冶の技を直接教わり、すでに一人前の腕を持っていた。しかし、女が鍛冶をすることを禁じる街の掟のため、その才能は影に隠されていた。
父の死後、弟子であり婚約者だったマルシャルは本性を現す。彼は金髪の女アンフィデリテと浮気し、マーガレットを「女である」という理由だけで否定し、婚約破棄とともに工房を奪い、彼女を街から追放した。街の長老たちも掟を盾に彼を支持し、マーガレットはすべてを失う。
行き場をなくした彼女を救ったのは、かつて父の工房に出入りしていた冒険者剣士アヴァン=チュリエだった。彼はマーガレットの腕を正当に評価し、女であっても実力が認められる隣町ヴァルナへ同行することを提案する。マーガレットは決意し、鍛冶師として生きる道を選んだ。
一方、リヨンに残ったマルシャルは急速に没落する。実は父の病中から工房を支えていたのはマーガレットであり、彼自身の鍛冶の腕は未熟だった。剣の質は落ち、客は離れ、恋人アンフィデリテにも見捨てられ、ついには工房は閉店に追い込まれる。
やがてリヨンには噂が届く。隣町ヴァルナに、桃色髪の若き女鍛冶師が現れ、冒険者たちから絶大な信頼を得ているという話だ。その名は――マーガレット。彼女の打つ剣は「生きている」と評され、名を刻まずとも分かるほどの逸品だった。
鉄は正直だ。
腕を持つ者の名を呼ぶ。
リヨンは、女を追い出した代償の大きさを、遅れて思い知ることになる。