あらすじ
境界市事象管理局。
この都市では、全ての出来事がナノ観測網によって記録・解析され、
「問題あり」か「問題なし」かに即座に分類される。
問題がなければ、記録は削除される。
削除された出来事は、最初から存在しなかったことになる。
下級記録官である私は、その最終判定を日々淡々と処理していた。
誰も怪我をせず、誰も違法を犯さず、誰も助けを求めない。
だから、問題は無い。
だがある日、「完全に問題の無い市民」のログに、
数値化できない欠損が発生する。
事故でも、病気でも、死亡でもない。
ただ――判断されなかった感情の空白。
観測されないものは、存在しない。
存在しないものは、守られない。
それでもシステムは正常に稼働し、
都市は静かに、正しく回り続ける。
「問題は、無かった。」
その一文が、何を消し続けてきたのかを、
この物語は最後まで説明しない。