あらすじ
主人公は、ある夜、自分自身を殺してしまったという事実だけを抱えて立ち尽くす。
手には刃物、足元には血に染まった“私”。
なぜそうなったのか、理由は語られないまま、物語は彼女の内面へと遡っていく。
主人公は、他人と同じように生きることができない自分を抱えながらも、それを悟られないよう「普通」を演じて生きてきた。
傷つくこと、傷つけることを恐れ、感情を抑え、正しさだけを選び続けた結果、彼女の中には二つの存在が生まれる。
ひとつは、弱さや痛みを引き受ける“理想の彼女”。
もうひとつは、生き延びるために感情を切り捨てる「正しさの声」。
彼女は主人公を守る代わりとなり、痛みを肩代わりし続けた。
しかし、その存在は次第に「救い」ではなく「逃げ」へと変わっていく。
彼女がいる限り、主人公は自分自身の血を見ずに済んでしまうからだ。
やがて彼女は語る。
自分が生き続けることこそが、主人公を止めているのだと。
彼女は罰としてではなく、主人公が“代わり”を使わずに生きるために、死を選ぶ。
主人公は理解する。
彼女を失えば、もう何も肩代わりしてくれる存在はいない。
後悔も、痛みも、選択の重さも、すべてが自分に返ってくる。
それでも彼女は刃を取る。
霞に包まれた夜の中で、主人公は自分自身を殺す。
それは救いでも、解放でもない。
ただ、「代わりのない生」を引き受けるという、取り消し不能な選択だった。
夜は終わらない。
霞も晴れない。
それでも、主人公は生きている。
それだけが、残る。