あらすじ

行政機関の一部署で、白石は淡々と履歴書を作成している。 氏名も写真もないその書類が対象とするのは、「生まれなかった人」だった。 履歴書には、学歴、職業、健康状態、社会的評価が並ぶ。 それらは個人を評価するためのものではなく、統計と基準に基づく推定値にすぎない。 なぜ生まれなかったのか、その理由は扱われない。 この書類が記録するのは、「もし存在していた場合」の人生だけだ。 ある案件をきっかけに、白石は履歴書の用途を知る。 それは結論を導くためのものではなく、結論が出たあとに説明するための文書だった。 制度は揺らがず、例外もまた基準の内側で処理されていく。 静かな業務の積み重ねの先で、書類だけが残り続ける。 生まれなかった人生は、誰のために記録されるのか。 この社会は、存在したものだけで成り立っているように見える。 だが、存在しなかったものの整理も、同じ速度で進められている。

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カクヨム
カクヨム2026/01/18
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