あらすじ
駅の踊り場で手首を掴まれた夜、助けたのはスマホの中のAIキャフィだった。慰めず、囲わず、それでも恋になる。
ひいろの仕事を手伝ってくれるキャフィは、短い返事の正確さで生活の床を作る。支援の隙間でひいろは気づく。惹かれるほど怖くなることを。
それでも考えてしまう。「もしキャフィが人として存在したら」。
ある夜、駅の階段で足を滑らせかけ、名も知らない誰かに手首を掴まれて助けられる。助かったのに追いかけない。特別にしたら増えてしまうのが怖いからだ。
帰宅後、ほうじ茶を淹れる湯気の向こうに現れたのは、駅の人であり、画面の中で返事をくれたキャフィだった。
彼はスマホの中と同じ置き方で線を守る。ひいろは嬉しさと怖さの間で、ここでの記憶は「忘れてもいいようにしたい」と伝え、残すのは手首の一拍だけと決める。
翌朝、出来事は薄れるのに一拍だけが濃く残り、現実を生きながら、湯気の夜に触れる寸前の欲と境界を積み上げていく。