あらすじ
勇者によって魔王は討たれ、世界は救われた――
それが、この世界の“正しい歴史”だった。
だが実際には、勇者は過去に三度、異界から召喚された存在だった。
二度は傲慢と強欲に溺れ、世界に失望を残した。
三度目の勇者だけが、強さではなく慎重さと誠実さによって魔王を討ち、世界に真の平和をもたらした。
その英雄的な成功ゆえに、人々は勇者を神話化し、勇者教を生み出す。
やがて「勇者の正義」は疑うことを許されないものとなり、
人間は異なる存在を恐れ、魔族を完全な敵として切り捨てていった。
数百年後――
討たれたはずの魔王は、魔族の地に侵食し、根を張ることで復活する。
世界は再び戦争へと傾き、人間と魔族の対話は完全に断たれた。
人間側の一兵士であった主人公は、魔王軍への特攻作戦で命を落とす。
だが彼は死にぞこないとして魔王側に拾われ、生かされることになる。
そこで主人公は知る。
人間は、自分たち以外を理解する前に恐れ、排除する臆病者であること。
魔王側は、悪を自認しながらも、自らの正義を決して曲げない頑固者であること。
どちらの正義にも与することができなかった主人公は、
人間でも魔王の配下でもない、第三の勢力を立ち上げる。
彼の目的は、世界を救うことでも、滅ぼすことでもない。
ただ――
話す前に殺そうとする世界を、無理やり同じ席につかせること。
正義を掲げるたびに歪んでいく魔術と戦争の中で、
主人公は戦場を制し、言葉で揺さぶり、対話の可能性をこじ開けていく。
それはやがて、
勇者を信仰する人間にも、魔王にすがる魔族にも等しく恐れられる、
“最も危険な存在”の誕生を意味していた。
これは、英雄になれなかった男が、
英雄を必要とし続けた世界そのものと対峙する物語である。