あらすじ
1話冒頭
「2039年10月10日、それは“ただの新作VRMMO”だったはずなのに」
銃を撃つ人生なんて、自分には縁がないと思っていた。
黒岩麒麟は、仕事帰りの電車の中でそんなことを考えていた。
吊り革を握る手のひらには、ほんのりと汗が滲んでいる。十月に入ったばかりだというのに、車内は蒸し暑く、スーツ姿の社会人たちの疲労と熱気が混ざり合っていた。
隣では、誰かがスマホで動画を見ているらしい。
微かに聞こえる銃声。爆発音。
「……また戦争ゲームかぁ」
麒麟は、そう小さく呟いた。
FPS。
ファースト・パーソン・シューティング。
ゲームのジャンルとして知らないわけじゃない。むしろ有名だ。
ただ、自分にはとことん向いていないと思っていた。
反射神経がいいわけでもない。
エイムが得意なわけでもない。
何より――銃を人に向けるという行為に、どうにも実感が湧かない。
現実で銃を撃つことなんて、日本に生きていればまずない。
だからこそ「ゲームだから」と割り切れる人も多いのだろうが、麒麟はその一線を越えられないタイプだった。
――そんな自分が、これから“荒野”に立つことになるなんて。
この時は、想像すらしていなかった。