あらすじ
深夜二時。誰もいないはずの廊下から、インターホンが鳴った。玄関先に置かれていたのは差出人欄が空白の小包。宛名は確かに“私”で、中には古いボイスレコーダーがひとつだけ入っていた。恐る恐る再生すると、雑音の奥から聞こえたのは——私の声で告げる「同意します」。言った覚えなどないのに、スマホには一瞬だけ「契約成立」の通知が走る。
止めても止まらない再生音。怯え、確認を繰り返すほど、同じ二秒が何度も“署名”されていく。異変に気づいた隣人が廊下へ出た瞬間、現象は他人の視線を得て、連鎖を始める。次に奪われるのは、私だけではない——。
契約が欲しがるのは金でも命でもなく「名前」の権利。仕組みを掴んだ私は、誰かを守るために、最も薄い救いを選ぶ。呼ばれない朝を引き換えに、インターホンを二度と鳴らさないために。