あらすじ
湖にかかる古い橋で起きた、ありふれた交通事故。
致命的な重傷を負ったはずの男は、救急搬送後も心停止に至らず、意識のあるまま苦痛を訴え続けていた。
それをきっかけに、街では奇妙な現象が広がり始める。
事故被害者、末期患者、高齢者――本来なら「終わり」を迎えるはずの人々が、どれほど衰弱しても、どれほど苦しんでも、死ねなくなっていくのだ。
鎮痛剤は効かず、鎮静も効かない。
看取りは終わらず、医療現場は疲弊し、付き添う家族の心が先に壊れていく。
それでも人々は言う――「まだここにいてほしい」「もう少しだけ」と。
語り手は、街に漂う不安と恐怖を見つめながら気づいていく。
これは病気でも事故でもない。
別れを拒む人間の感情が、「終わる権利」を奪っているのではないか、と。
愛するがゆえに手放せない。
納得できるまで、終わらせたくない。
その想いが重なった結果、生まれたのは救いではなく、終われない苦痛だった。
静かな湖面に映る月の下、
語り手は問い続ける。
――人は、誰かの「終わり」まで含めて、愛することができるのか。
終わりを拒む世界で浮かび上がるのは、
死よりも残酷な、人間のエゴそのものだった。