あらすじ
久しぶりに開かれた所属の飲み会。業務に支障が出ない範囲という前置きのもと、酒好きな同僚たちが集い、ビンゴ大会まで行われる賑やかな夜となった。汐海はそこで、本格的なビーフシチューのルーを景品として手に入れる。
数日後、その景品をきっかけに「汐海作シチューの会」が企画される。市川や三島の勢いで話が進み、小田原の家を会場に、同期や後輩が集まることになる。料理が得意な汐海は自然体でキッチンに立ち、丁寧にビーフシチューを作り上げる。その味は参加者全員を驚かせ、場は笑顔と和やかな空気に包まれる。
特に新人車掌の高坂杏奈は、その時間と料理に強く心を動かされる。仕事中の汐海とは違う一面に触れ、無自覚のうちに芽生えた感情に戸惑いながらも、彼女はその想いを胸の内に留めることを選ぶ。
休暇明け、通常業務に戻った職場では、いつの間にか「汐海のシチュー」が噂になっていた。参加できなかった安曇もその話を耳にし、汐海の人柄と影響力を改めて感じ取る。やがて安曇は汐海を静かに呼び止め、善意や面倒見の良さが、時に相手を揺らすことがあると忠告する。特に、仕事に踏ん張っている新人に対しては、距離感を意識することの大切さを伝えるのだった。
汐海はその言葉を真摯に受け止め、自分が思っている以上に周囲に与える影響を自覚する。そして次に誰かを招く時は、料理の火加減と同じように、人との距離にも気を配ろうと心に決める。
ビーフシチューは、ただの景品だった。しかしそれは、人を集め、心をほどき、誰かの気持ちを静かに動かす――そんな小さくも確かな力を持っていたのだった。