あらすじ
宮廷を追放され、辺境の村で「一日一皿」だけを作る料理人レイン。
その食堂は一年の時を経て村に溶け込み、静かな評判を呼んでいた。
そんなある日、身分を隠した一人の客が訪れる。
重い病を抱え、ほとんど食事を受け付けないその人物に、レインは告げる――ここでは一日一皿しか作らない、と。
理由は効率でも信条でもない。
すべてを作れば、どれも誰にも届かなくなるからだ。
だが一日一皿という選択は、必ず「選ばれない者」を生む。
病の客を優先することへの反発、子どもや旅人との板挟み、
そして「選ばない仕組み」を持つ王都からの復帰の誘い。
誰もが正しく、誰もが間違っていない状況の中で、
レインは“選ぶ料理人”であり続けることの重さを突きつけられていく。
やがて病の客は、自らがこの場所に生む歪みに気づき、
それでもなお、レインの一皿が「今日を生きていい」と思わせてくれたことを語る。
料理が救うのは身体だけではない――
その事実が、レインの迷いを決断へと変えていく。
王都へは戻らない。
すべてを救うためではなく、確実に届く一皿を作るために。
一日一皿は世界を変えない。
それでも、生きる理由を“今日”に残すために、
レインは今日も火を入れる。