あらすじ
以前書き下ろした小説の改訂版です。
明峰大学文化人類学研究室。静謐な空気の中、准教授・綾城遼一のもとに集う学生たちは、それぞれの問いと情熱を胸に、神話と人間の深層に迫ろうとしていた。春、三年生の真木理央が新たに加わり、修士課程の氷室志帆や同級生・久遠柚季と共に、地方の祭礼や信仰を辿るフィールドワークが始まる。
鹿島神宮での取材の折、理央は早乙女を務めた女性・白井沙羅との出会いをきっかけに、神の声を聞くという超常の体験をする。理央の中に響いたのは、剣の神・タケミカヅチの声。やがて彼は、自身が“神に選ばれた存在”であることに気づき、綾城もまた異能を持つ者であると知る。
一方、大学運営の中枢では、事務総長・安原昌治の不倫が発覚し、彼の妻であり理事長の娘・道代が狂気に飲まれてゆく。理央はその場で再び神の力を借り、刃を振り上げた道代を制止し、穢れを祓った。彼に宿るのは、災いを海へ流す水の神・瀬織津姫の力だった。
事件の余波が収まる中、綾城と理央は静かな夜のバーで語らう。研究と信仰、そして異能という共通の運命に導かれ、二人の心はゆっくりと重なり合い始める。だが、志帆だけは気づいていた。長年隣にいたはずの綾城が、今では理央の方を向いていることに。誰よりも彼を理解していたと思っていた自分が、その手に触れることすらできなかったことに。
――綾城と理央は、ただの師弟ではいられないかもしれない。
そんな予感と、志帆の胸を満たす静かな焦燥が、物語の結末を静かに染めてゆく。