あらすじ
剣より先に言葉が血を呼ぶ世界で、臨時雇いの通訳官レイは和平会談の席に立つ。獣人が口にした「従う」という一言が、彼らにとっては“部族の死”を意味する宣告だと見抜き、レイは即断せずに会談を止めた。沈黙は同意ではなく拒否になり、善意の無償支援は侮辱へ変わる。言葉の意味は種族や文化で変わり、曖昧な条文は裏切りの刃になる――レイは「言葉」ではなく「意味」を訳し、誤解できない形へ整えていく。だが戦争を止めるほど、軍部や貴族からは“便利すぎる存在”として危険視され始める。王に呼ばれたレイは、かつて誤訳が血を生んだ過去を告白し、だからこそ訳さない勇気を持つのだと語る。最後の大和平会談、条約の一文が剣になる瞬間、レイは訳さずに意味を可視化し、各国に言葉を選ばせる。剣が抜かれないまま会談が終わり、戦争は起きなかった。それで十分だと、彼は静かに息をつく。