あらすじ
風が吹いていた。青年は、ただ足の向くまま歩き続け、気がつけば高い白城壁が視界に立ち上がっていた。
門をくぐろうとした瞬間、鎧の一団が動いた。
団員「そこの旅人、止まれ!」
鋭い声が響き、青年は反射的に足を止めた。聖騎士団、この国の民を守護する民間組織。
男が近づき、青年を見つめる。
団員「名は?」
青年は口を開きかけたが、言葉が出ない。何も浮かんでこない。
???「……すまない。思い出せないんだ。記憶が、ないんだ。」
一瞬、風の音だけが門前を支配した。
だが、団員たちは剣を抜くでもなく、互いに視線を交わすと隊長が静かな声で言った。
団員「事情を聞かせてもらう。怪我人ではないようだが、行方不明者かもしれん。こちらへ来い。」
青年は導かれるまま、聖騎士団の施設に入っていった。
石造りの部屋。机がひとつ。 青年は水を渡され、向かいに隊長が腰を下ろした。
団員「まず、どこから来たのか分からないと?」
???「気がついたら荒野を歩いていた。何日歩いたのかも……。」
聖騎士団の団員が記録を取り、眉をひそめた。
団員「魔獣との遭遇跡もなく、一人で無傷。……普通ではないな。」
青年自身もそう思った。しかし手がかりがない。
団員は少し考え込み、やがて別の話題へと切り替えた。
団員「では、確認しておく。お前は――この世界について、どれほど覚えている?」
青年は首を振った。地名、歴史、国家関係。どれも霧の中だった。
???「……ほとんど、何も。わからない。すまない。」
団員「ならば基礎から聞く必要があるな。これはわかるか?」
団員は様々な質問と説明をした。青年は必死に吸収しようとしたが、説明の半ばで団員がふと笑った。
団員「……悪くない。素質がある。」
そして、思いもよらぬ言葉が続いた。
団員「記憶が戻るまで聖騎士団に入れ。保護と同時に鍛える。自分の身を守れるだけの力を持っておくべきだ。」
青年は目を見張る。
???「……俺が、聖騎士団に?」
団員「そうだ。名前がないなら、仮名でも構わん。」
青年はしばらく沈黙し、やがて小さくうなずいた。
???「……よろしく頼む。」
こうして、記憶を失った青年は、聖騎士団の一員として新たな道を歩み始めた。