あらすじ
社長室にノックなしで入ることを許された秘書・岩田は、社長から深い信頼を寄せられている存在だった。
数字の読み、判断の速さ、沈黙を恐れない姿勢
——そのすべてが、社長の右腕として評価されている。
一方で岩田は、社内の人間関係の中では常に一歩引いた場所に立ち、雑談や馴れ合いから距離を保っていた。
岩田は過去を思い出す。
若手時代、同期の和田は医療機器の不具合に疑問を呈し、役員会で真っ向から異議を唱えた。
しかしその「真面目すぎる」姿勢は組織に疎まれ、和田は責任を一身に負わされ、会社を去る。
岩田は正しいと思いながらも沈黙を選び、その選択が後悔として残り続けていた。
やがて社長秘書となった岩田は、社長肝いりの海外向け新プロジェクトを巡る外部監査に関わる中で、過去の不具合案件と現在の技術がつながっている事実に気づく。
そこには、かつて「例外」として処理された和田の案件と、社長自身の判断が記録されていた。
岩田は資料を「整え」、事実を正しく並べ直す。
結果、外部監査の場で社長は言葉を失い、かつて封じた過去と向き合わされることになる。
沈黙を武器としてきた岩田は、最後に社長の目を真正面から見据え、自らの役割を果たす。
夜のオフィス街を歩きながら岩田は悟る。
忠実で真面目な秘書としての年月は、
復讐のためではなく、
沈黙という刃を最も効果的に使うための準備だったのだと。
沈黙は逃げではなく、
使いどころを誤らなければ、最も鋭い力になるのだと。