あらすじ

中高一貫の私立・高天原学園。全国常連の強豪演劇部で、脚本と演出を担う二年生・高木優希は、舞台の中心で観客を射抜く同級生の役者、東雲大我を見ては胸の奥を灼かれていた。尊敬している。だからこそ妬ましい。努力と理論で積み上げたはずの設計が、たった一瞬の声色と間合いに塗り替えられる————「天才」という言葉が、優希には呪いだった。しかもこの部は女所帯。裏方も役者も妥協を許さず、朝練から完全下校まで稽古漬けの日々が当たり前。優希はその苛烈さを設計で束ね、全員を一つの劇にして勝ってきた。 大我は感情を役に落とし込む天賦の才を持つ一方、言語化が壊滅的で、他者とのコミュニケーションは不器用だ。天才がゆえに脇役でも目立ってしまい、望む望まぬにかかわらず主役を背負わされる。それでも彼は、優希の台詞と構造にだけは迷いなく惹かれていた。ひたむきに机に向かい、舞台をまるごと包み込むように設計していく背中が、眩しくて仕方ないのだ。互いに互いの「才能」に救われ、同時に傷つけられていることを、二人はまだうまく認められない。 文化祭を終え、次は地区大会のオーディション。課題は銀河鉄道のオマージュ作品で、最も盛り上がる「最後の十分間」を演じ切れ。締切と中間テストに追い詰められ、肝心の場面が書けなくなる優希。泣きついてくる大我の勉強を見ながら、未完成の台本を睨み続ける夜。助け舟のつもりで台本を覗いた大我は、書きかけを一瞥しただけで正しい解釈を立ち上げ、完璧な役を見せてしまう。悔しさが創作の燃料になり、優希の執念はさらに加速する——お前を一番輝かせられるのは自分だ、と。勝ちたいのか、隣に立ちたいのか、それとも——。 だが、言葉にできない衝動は、時に台詞より先に舞台裏で形を取る。境界が揺らぐ稽古の日々。台本のない場所で始まるアドリブの合戦。役に引きずられ、いつしか自分の感情まで舞台に混ざっていく恐怖。さらに周囲から突きつけられる「実力差」という現実。引退した元部長・高橋沙夜里は、勝負の舞台で見せるには残酷すぎると異議を唱え、元副部長もまた沈黙で圧をかける。勝つために、部の誇りのために、そして観客への礼儀のために————二人は選択を迫られていく。やがて大会は遠征を伴い、舞台は学校の外へ。ライトの熱、客席のざわめき、緊張で乾く喉。二人だけが知る「合図」が、演技と現実のどちらを揺らすのか。勝敗よりも先に、相手の人生に自分の存在を刻みたいという欲が、優希を舞台へ押し出し、大我を言葉の外へ追い詰めていく。 才能は星のように遠い。手を伸ばすほど眩しく、届かないほど心を焼く。それでも————もし、その星へ向かう道筋を「才能の使い方」で変えられるのだとしたら? 緞帳の裏で交わされる言葉にならない約束と、舞台の上でしか言えない本音。努力と天賦、嫉妬と敬愛が絡まり合う先に、彼らが辿り着く「ほんとうのさいわい」とは。

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カクヨム2026/01/16
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