あらすじ
「——春の満月までに、“心が大きく跳ねた回数”が百を超えたら、お前は消える」
森の治療師にそう告げられたのは、雪がほどけ始めた朝。
私は子猫。名前も、居場所も、まだ薄い。
けれど不思議と、泣かなかった。
“なら、跳ねないように生きよう”と静かに決めた。
私を拾ったのは、無口な魔狼の騎士・グレイ。
彼は合理的で、優しい言葉を言わない。
でも——火を絶やさない。毛布をかける。食事を半分にして私に渡す。
一貫して、私の味方だった。
「契約だ」
そう言って彼は、保護の首輪に小さな札を結ぶ。
そこに書かれたのは、たった一語。
——“呼ぶ”。
小さな灯り、温かいスープ、近すぎない距離。
跳ねないはずの心が、日々の小さな幸福で少しずつ揺れていく。
春の満月が近づくほど、私は知ってしまう。
“跳ねない”よりも怖いのは、
この優しさを——失うことだと。