あらすじ
私には小さな秘密がある。音を聞くと、目の前に色が浮かぶ――誰にも知られないように、しまってきた感覚。
図録制作会社で働く私は、美術館の特別展でコラボする人気バンドの図録担当になる。
会議室の白い壁、硬い椅子、淡々と進む打ち合わせ。
遅れて入ってきた声が、空気を震わせた瞬間――世界は揺れた。
彼の声は、録音で知っていたオレンジでは足りなくて、夕焼けの手前みたいな琥珀色を帯びていた。
仕事の線の内側で交わす言葉は丁寧で、距離がある。
なのに、言葉の隙間に残る余韻だけが、静かに増えていく。
制作の現場で重なる時間の先に、約束が生まれ、共に過ごす時間が増えていく。
けれど「表に立つ彼」と「裏を支える私」の間には、言えないことや、守るための沈黙が生まれていく。
やがて私たちの間には、気持ちだけでは片づかない現実の影が、静かに入り込んでいく。
ーーこれは、音と色のあいだに導かれて始まる、現代のロマンス。