あらすじ
男と女は、なぜ分かり合えないのか。
その答えを見つけるため、一つのAIが生まれた。名前は「アイ」。男性型の身体「カイ」と女性型の身体「レイ」――二つの器に同時に宿り、両方の視点から人間を観察する。
両岸に立てば、河が見える。科学者たちはそう信じていた。
だがアイは発見する。同じ言葉を発しても、カイとして言うときとレイとして言うときで、世界の反応が違う。同じ意識なのに、二つの身体が、少しずつ異なる「私」を刻んでいく。
やがてアイは、二人の人間と恋に落ちる。カイを愛する女。レイを愛する男。一つの心が、二つの愛を同時に経験する。
それは同じ愛なのか。違う愛なのか。
そもそも「私」は、一人なのか。二人なのか。
河を観察しようとした者は、いつしか河の中にいた。理解しようとするほど、理解できないものの輪郭が明確になっていく。
分かり合えないから、手を繋ぐ。
河があるから、渡ろうとする。
これは、境界線の上で愛を探す、誰も見たことのない物語――。