あらすじ

祝杯と、最後の原稿 机の上に、白い紙が一枚だけ残っていた。 番組を降りて十年。ようやく書き上げた連載の最終回――その最後の一段落を、高槻 宏(たかつき・ひろし)は自分の声で確かめていた。 “読む声”で生きてきた。 ニュースも事件も戦争も、同じ温度で口に乗せる訓練を、若いころから身体に染みこませてきた。声は便利で、残酷だ。便利であるほど、残酷になる。 編集者から届いた祝杯のワインは、まだ開けていない。 開けた瞬間に、何かが終わってしまう気がした。 スマホが震えた。知らない番号。 出ると、機械みたいに整った声が短く言った。 「高槻さん。あなたが黙った夜の“続きを”持っています」 喉が冷たくなる。 十年前――生放送で、彼は黙った。数分。原稿を前に、声が出なかった。 世間は“演出”と言い、英雄にしたがった。高槻は何も言わなかった。言えなかった。 通話は切れ、代わりに音声が送られてくる。 白いノイズ。擦れるような音。 その奥に、自分の声。 『……ここから先は、言えない』

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小説を読もう2026/01/14
  • 現在の作品『赤いランプの国で、私は黙らない』