あらすじ

雨の朝、田園調布。 「できるだけ早く帰る」――その言葉の曖昧さを、彼はもう何年も飲み込んできた。 国内屈指の透明素材メーカー「晶和マテリアル」。 品質責任者・真田 恒一は、硝子の“曇り”が何を意味するか知っている。 曇りは、見えない欠陥の始まり。放置すれば、必ず割れる。 海外の最重要顧客・NordLight Opticsから届いた一本のメール。 「反射率にわずかな異常。工程変更は?」 ――“わずか”と言うとき、それは警告だ。 だが工場の検査ログは、肝心な期間だけ欠落していた。 偶然ではない。誰かが消した。 そして、その裏には「工場を守るための嘘」があった。 止めれば、現場が死ぬ。 出せば、信頼が死ぬ。 家族、部下、現場、経営、そして世界基準の透明性。 雨に濡れながら、真田は選ぶ。 “曇らせない”とは、綺麗ごとではなく――痛みを引き受ける決断だ。 これは、硝子を守る物語ではない。 信頼を守る物語だ。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2026/01/14
  • 現在の作品『雨でくもらない硝子』 Glass That Never Clouds in the Rain