あらすじ
1. 祝福みたいな追い風
四月の港町は、潮の匂いより先に、新しい制服の硬さを連れてくる。襟が首に当たってむず痒い。胸ポケットの名札がまだ馴染まず、歩くたび小さく揺れた。
駅前の坂を下ると海が見える。校舎へ向かう道が、朝だけ少し青くなる。その色が好きだった。世界が「いけるよ」と言ってくれているみたいで。
その日、私は祝福を信じた。
信じたまま、転んだ。
靴紐がほどけたことに気づかず、横断歩道の白い線に足を取られた。視界が斜めになる。慌てて手を出した瞬間――ベルの音と、ブレーキの低い唸り。